そのアパートは、「セリィスト専用」と書かれていた。
セリィストという言葉は最近できたものだ。元々は来栖川の傑作、HM-13型メイドロボに心酔するマニアの事を指した言葉なんだけど、後にそれは「メイドロボを伴侶とする人々」という意味にとってかわられた。
家庭用ロボット、つまり機械じかけのお手伝いさんという意味でメイドロボ、またはホームメイドという名称を与えられ普及していた彼女たちだが、元々は医療や老人介護のために生まれた歴史があり、今も彼女たちの用途ナンバーワンは在宅介護。そしてそういう用途に使われる以上、ただの機械然としているより人間っぽいモデルがやはり好まれるのは人間の人間らしい願望である。だからたちまちのうちに、ただの箱みたいな代物だったメイドロボは人間と見分けがほとんどつかないほどにまで進化してしまった。
そうなると今度は、ひとり暮らしの若者がルームメイトとして買うケースや、子供のない夫婦が娘代わりにと買うケースも爆発的に増えた。彼らは外出時にもメイドロボを家族同様に連れ歩くため当初は物好きなマスコミにさんざ叩かれたが、今ではそういう人々をセリィストと呼ぶようになり、社会の片隅に一定の地位を持つまでになった。なぜセリィストかというとこれが簡単で、一番最初に報道されたのがセリオオーナーで、その時マスコミが考えたコピーがこれだったから。ヘッドホンステレオをウォー○マンと呼ぶのと同じ理由というわけなんだな。
問題は、セリィストが未だ社会的にはマイノリティだという事だ。
特に、僕みたいに若者がメイドロボを連れていると、異性恐怖症とか異常性愛者と想われるケースが今も多い。メイドロボ同伴は実質、お断りの喫茶店やレストランも結構ある。もちろん、年配の方が医療目的で連れている場合は問題ないけど、健常者である僕なんかだと入れても白い眼で見られてしまう…まぁ露骨にそうでなくても、ウエイトレスの娘の態度なんかにそれは出る。あからさまにうさんくさがられるのだ。バスや電車でも悪戯されたり、おばさんとかが芹緒を突きとばして列に割り込むなんざ日常茶飯事。メイドロボだからだ。もちろん僕がいれば文句を言うが、そんな時の彼らの眼つきは言わずもがな、だ。つまり、「女にもてないからメイドロボ連れてる変態野郎」である。なんとも情けない限りと言うしかない。
まぁ、僕の愚痴なんかは今はいい。とにかくそんな不愉快な思いをするのはなるべく避けたいわけで、アパート選びは慎重にならざるを得ない。というわけでまぁ、さっきから僕と芹緒はアパートの前で躊躇し立ち尽くしているわけだ。
「いつまでこうしているのでしょうか?」
「…あぁ」
「このまま立ち尽くしていても埓があかないと思われますが」
「…あぁ」
「仕方ありません。私が先導いたしますので続いてください、明仁さん」
「…あぁ……?って何?何かいった?芹緒」
「………とりあえず、なんでもいいですから参りましょう」
「?」
なんだかよくわからないが、溜息をついて僕の手をひく芹緒。まぁどのみち入らなくちゃならないんだし、いいんだけど…なんだろう?
…僕はまだ、知らなかった。
この世には、メイドロボが懐(なつ)きやすいタイプの人間がいるという。それはつまり「介護の必要な人間」ということだがそれは必ずしも障碍者や老人子供だけを意味するのではない。いわゆる専門馬鹿や学者肌、つまり何かに夢中になるあまり日常をまるっきり疎かにするタイプの人間も、それらの対象だという事に。
そして、どうして僕の芹緒がセリオたりえるか、という事にも。
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