変態国道を見にいこう!千葉県編

はじまり

 CLの整備も終わり、ちょこっとおでかけしてみようかと思っていた某日午前一時頃。愛読ページのひとつである 『山さ行がねが』(以降「山行が」) という廃道・遺構・廃隧道(ずいどう)サイトを見ていて、ふと千葉県にある変態国道の記事が目に止まった。(道路レポートのところにある『国道410号 松丘迷走区』という記事を見てください。)
 房総半島、それも木更津からすぐのところに、明治竣工の素彫り隧道(トンネル)を擁する古風な国道があるという。しかもその国道たるや、二本有数の廃道・廃1隧道マニアの管理人氏をもってしても「普通じゃない」という噂の国道410号線。
「なんだ近いじゃん。行ってみようか」
 そも、その近いというのも今のうちなので(いつになるかがまだ不透明だが、移動が予定に入っている)、さくっといける今のうちに行っておこう。

 さて、CLにはETCを取り付けてないから高速は使わない。使っても千円以下に押さえるつもり。とはいえ、現在のうち(2009/09現在)からならば高速なんか使わなくても十分いけるだろう。早朝だし。
 今から行けばゆっくり行っても朝に着くだろうから、のんびり楽しめるだろう。
 そんなわけで午前二時台、まったりと出発したのだった。

 4ツーリング目的で都内を通過するのは久しぶりだ。たぶんカブ90で日本一周中が最後だから、18年ぶりなんじゃないかな。しかもあの時は結局、川崎にくだって木更津にフェリーで渡るというセコいショートカットを演じたわけで、本当に純粋にツーリングで通過したとなると、88年頃のレブル全盛期まで遡らねばならないだろう。それほどまでに私は東京を走るという事を徹底的に避けていた。

 今はもう避ける必要がない。だから、地図と携帯とヤマ勘で走る。

 なんとか四号線にたどり着き、そこから14号の分岐に入り込んだ。もっと近いルートもあるかもしれないが、東京に不案内な私ではこれが限界だ。
 とりあえず千葉・船橋を経由して木更津に向かう。

ローソンにて。

R16沿いのローソン。まだ木更津にすら着いてない。しかも雨がふってきた。

 うーん最悪。道路は空いているが路面はびしょ濡れである。
 空は暗いが星が見えず、どんよりしている旨がわかる。どうやら都内じゃもう抜けている雲が房総では抜けていなかったようで、バイパスを走っていると唐突に降り出して止んでを繰り返してしまう。
 すぐカッパを着てもいいんだが、いわゆる3ヌグフルキルヤムの法則が適用される可能性が大きすぎる。あれは楽しくないわけで、なんとか無理やり持たせる事にする。お茶を買う。畜生、ドリンクホルダーないじゃん。
 時々小雨のパラつく超どんよりワールドの中、木更津に到着。R409沿いのローソンでまだ若い運ちゃんに「ツーリングかい?」と言われてハイと答える。だが変な時間(まだ四時台だ)だったので遠方と勘違いしたのだろう。ふむ、と頷いてどこかにいってしまった。

さて、いよいよだ。 すでに元ネタのサイトを見ていると思うが、ここで改めて目的の国道について紹介しておこう。 問題の国道410号なんだが、四国で言うところの439国道みたいなものだと言えばわかりやすいだろうか。房総半島の中を走るいわゆる2酷道のひとつなんである。実際に現地を走ってみて本当によくわかったのだが、田舎も田舎、「集落」という言葉がぴったり似合う超田舎である。早起きしたチャリの女学生とすれ違ったのだけど、紺に白二本ラインのジャージにヘルメットまでつけていた。本当に439国道っぽい。 そんな国道の、これまた旧道である。モータリゼーションにおいてけぼりを喰らったような超ド田舎なんであるが、驚くなかれ、皇居から一般道をバイクで走って二時間のところにこの田舎は位置するのである!本当に凄いのはこのギャップだろう。

国道410号と465号の集合点

 分岐点。ここでV字に曲がらず後ろに向かうと、国道465号線。

 この写真だとよくわからないが、Y字路になっている。Yの左が国道411号、下が465号、そして写真に写っているのが両方の合流区間なのだが、なぜか2車線の国道同士の合体なのに1車線しかなくて、しかも民家の庭みたいなところをいきなり通過する。なめとんかと言いたくなるほどに笑っちゃう状況。

 ただ、これは実際に走ってみるとわかるが、歴史上無理もない。
 通り抜けたい人は何も考えずにそのまま465号に切り替わる。道路の番号が変わるけど気にしちゃいけない、それが千葉の道路というものらしい。
 で、411号の方はというと、ここでV字どころか最終的にはブルーリボン型を描いて「さっきまでの自分自身の上をトンネル上の旧道として横切る」という荒技で通り抜ける。そしてどうなるかというと最寄りの集落の中を抜ける生活道路になっているのだ。集落の人は、広くて飛ばせるバイパスに簡単に出てくる手段として、この盲腸のようになった一車線国道区間を利用する。何しろ一番狭いところで軽自動車の車幅しかないというとんでもない「国道」なので、普通の奴はまず抜け道には使わない。

 さて、ではどんどんいこう。本当におもしろいのは、この分岐の約45秒後(かなり嘘)に突如として視界に現れる。

四町作第一隧道(推定・明治35年竣工)

見てくれ、この素朴すぎる素彫りの隧道を!これでも天下の国道なのである!

なんて古めかしいんだろう。隧道の名前すら入ってないしなんの記載もない。 「山行が」によると、四町作第一隧道という名前らしい。いくつかの異説もあるが、明治35年竣工であるというのを信じたいところである。 これを信用すると、現在使われている国道のトンネルとしては全国二番目という古さになるらしい。

しかし、不気味だ。

なんの銘も入ってないのも不気味だが、そもそもたどり着いた時点で夜が明けてなかったという私の致命的なマヌケさもあった。林道より狭い、いい雰囲気(旅行者視点では、ですが)な山道国道にするする入っていくと、いきなり鬱蒼とした山腹に道が入り込み、その暗部の中にいきなり、問答無用に、ずどーんとこの隧道は鎮座しているのである。

こわい。すげーこわい。

こんなところにチャリできたという「山行が」の管理人はやはり化け物か変態 (注:最大級の敬意を込めて) に違いないと実感する。ここにくる手前にあった「普通のトンネル」だって十分にやばい気配をビンビン放っているというのに。 隧道の中には離合のためと思われる広場が少しあるが、とどまりたくないので足早に通り過ぎる。 (注: 地元の人はよく使うようで交通量が結構多いようです。とっても危ないので要注意!) で、あれこれ撮影する。

引き上げ中の景色

 引き上げ中にも撮影。これ国道です、しかも皇居から(以下略

 そういえば房総半島というと山がなだらかな反面、土質の関係なのか隧道天国と聞いたことがある。珍しい素彫りの隧道が無造作にたくさんあるとか。確かにこの隧道も無造作に使われていた。

 ふむ。他にも見てみたいものだなぁ。

 実際問題、房総半島は五島列島と並んで、かつての私のツーリングルートの「穴」だった。ここ十年あまりの横浜生活のうちに房総半島は埋めるつもりだったのだけど、いろいろあって、すっかりバイクでおでかけという事自体を忘れてしまっていた。
 うむ、もしかしたら今この時期にまだ関東に居残っているのは何かのめぐり合わせか。本来なら予定外なのだけど、せっかくだからチャンスと巡れるだけ巡っておくとするか。

帰り着いてみたら。

家に帰り着いたら何故か朝の八時半でした。
昼までかかる予定だったのですが ^^; えっと、朝練?

(おわり)

言葉の説明

単語 読み 意味
1隧道 ずいどう トンネルの事。中国式の呼び名だそうで戦前まで使用。戦後トンネルとなった。ただし上高地に繋がる『釜トンネル』だけは昭和初期の初代から釜トンネルと呼ばれたようです。
2酷道 こくどう こちらはマニアのスラング。酷いという意味の(こく)と国道にひっかけていて、文字通り酷い状態の国道をさす。林道より狭い、車両通行不可(登山国道や階段国道他)、事実上の廃道などなど。同様のものに、県道からきた険道(けんどう)がある。
3ヌグフルキルヤムの法則 ぬぐふるきるやむのほうそく そのまんま。「脱ぐ降る着る止む」の意味で、カッパを着るタイミングがいかに難しいかのたとえ。
4都内の通過について - 中山道や東北道に向かうために環七もしくはそれより外を走ったものは含めていません。今回は環七の中を通っていますので、久々の通過にあたります。