すみません。いちおう本稿は18禁です
寝正月という言葉がある。家族もない独身男にはありがちの事だ。
昔ならこういう時はバイクでおでかけしたのだが、最近はそんな元気もない。炬燵にはいってボーっとしていることが多かったものだ。
で、セリオがいる今もそうしているのだが……
「なぁセリオ」
「なんでしょう」
「お茶、いれないか?」
「いいですね」
目の前で炬燵に入り、突っ伏していたセリオがむっくりと起き上がる。
……ていうか、なんで君まで伸びてる?
「コーヒーがいいですか。いいですね。では」
「いや、ポットからセット一式から足元に全部配置してるんだから確認しなくていい」
「はい」
本当は日本茶が欲しかったんだが、セリオを見てたらなぜかそれでいいと思った。
しかし、ものぐさ仕様のセリオというのも珍しいなぁ。手の届く範囲に全部揃えてあるぞ。
もしかして、僕の癖が伝染ったんだろうか?まさかね。
「……」
こぽこぽと音がする。簡易ドリップのコーヒーなのはお正月仕様なのか。それともたまたま安かったからなのか。きっと両方だろう。
「はいどうぞ、大将」
「ん、ありがとう」
コーヒーをうけとる。
磁器のカップに湯気がのぼる。口をつける。……ん、うまい。
「……」
セリオはというと、もう用はすんだとばかりにまた突っ伏している。なんだかなぁ。
「……」
外では、どこかで子供の声がする。
都心の正月は静かだ。いつもより人口密度が比較にならぬほど低いせいだが、いささかちょっと静かすぎるかもしれない。
ちょっと退屈になってきて、僕は言う。
「セリオ。何かしようよ」
「何か、ですか?」
もそ、とセリオが動いた。ちょっと上目使いの感じがちょっといい。色っぽくすらも見える。
てか、どうして眠そうですか君は。ロボットなのに。
……ってそうか。前オーナーの誰かの行動パターンを覚えてるってわけか。本当に眠いわけじゃないよな、うん。
「歌うとか?」
「歌ですか。どんなジャンルのものを?」
「……いや、やっぱりいい」
前にセリオに歌ってもらったことがある。綺麗な声だったと思う。
だけど、今はちょっとそういう気分ではない。
「では何がいいでしょうか?」
「う〜ん……手軽にできて刺激的で、今までした事ないことって何かあるかなぁ?」
我ながら、なんて自分勝手な話だろうか。ほら、セリオも首をかしげている……ってセリオ?
「……」
何かを考えるように首をかしげたセリオだが、突然に「きゅ、きゅ」と一瞬、断続的に止まったり動いたりという奇妙な挙動を示した。サテライトしている時の特有の動きだ。
って、何をダウンロードしたんだ?
「セリオ?」
何を考えているのか、いきなりセリオは炬燵に潜り込みはじめた。
「お、おいおい、どうしたんだセリオ……ってえ?え?」
ち、ちょっとまて、なんで炬燵の中で僕の膝を掴む?
この炬燵は大昔のものと違い、でっかい発熱体が底面にあったりはしない。だからセリオが潜る程度は確かに問題ない、ないのだが……?
『大将』
炬燵ごしに、くぐもった声が聞こえた。
『胡座をかかれると少し狭いです。足を投げ出して楽にしてください』
「いや、足を投げ出せっていったい何やってるの?」
『もちろん、手軽にできて刺激的で、今までした事のないことです。さあ早く』
「そ、そうか。わかった」
よくわからないが、言われた通りに足を投げ出した。
言い訳にもならないが、僕はこの時点でまだセリオがしようとしている事を全く理解してなかったんだ。
だけど実際にはかなり微妙である。
セリオはいわゆるセクサロイドではないわけで、性的な機能など装備されていない。一部の特別仕様などでは装備されていることもあるらしいが、それだってそういう用途で使われるものではない。少なくとも一般にそこらを歩いているモデルには装備されていないのである。基本的に。
下品にいえば「穴が『ない』」のである。
オプションとして搭載は可能なのだけど、御世辞にも安価とはいえないし色々と面倒な制約もある。特に日本では局部パーツを本体と一体化できないため別の意味での問題もある。つまりお金も手間もそれなりにかかるわけだが、それを乗り越えたとしてもさらに問題は続く。セリオたちは全てリースであり定期点検時にあらゆる記録はわかってしまうわけで、
早い話が、そういう用途に使っているとバレバレ。これでもなお手だしをしようなどという輩が早々いるだろうか?
ところが、である。
意外な面からメイドロボ、特にセリオとそういう関係にある者が存在したのである。
予想のついた方もおられるだろう。そう、『医療行為』である。
セリオにココロ、またはそれに類するものがあるという議論にはここでは触れない。僕にもわからないし知りたいとも思わない。僕は『我思うゆえに我あり』のメタ・バイオロイド議論にここで参加するつもりはないし、セリオが恋愛感情を抱くかどうかなんて話を聞きたいとも思わない。セリオはセリオ、それでいいと思う。
知っているのはふたつだけ。
まずひとつ。
セリオはいわゆる『性的な行為』を医療として選択する場合があるってこと。
そうなのだ。
たとえば、性行為またはそれに類する行為がマスターの精神的・肉体的健康維持に必要だと判断したその時、
そうした者に対し、セリオの方が行動を起こすことがあるらしいのである。
そしてもうひとつ。
うちのセリオには……『ある』だったりするのだ。いやマジで。
その瞬間、股間に走った強烈な感触に僕はのけぞった。
僕は女性とそうしたことをした経験がない。もしあったとしても、そういうことを要求することはきっとなかったと思う。だって、あまり綺麗なものじゃないだろ?
だから、セリオが僕の浴衣に下から潜り込みパンツを引き下ろされた時は驚きのあまり動けなかったし、炬燵の中で「はむっ」と咥えられた瞬間には何がどうなったのかまるで理解できなかったんである。
「う、うわ、ちょ、セリ」
セリオ、と言おうとした瞬間、股間にまた異様な感触が走った。セリオが「離れた」のだと気づいた次の瞬間、股間のあたりの炬燵布団がめくれてセリオの顔が出た。
「はろー、大将」
「……どっから顔出してんだ君は」
とりあえず、唇の隅っこに僕の毛が張りついてるのは見なかった事にした。てーか、まるで僕の股間からセリオが生えてるみたいだ。不気味。
その股間セリオはいつも通りの冷静な顔でこう言った。僕の股間で。
「あまり騒がれるとご近所に何事かと思われますよ大将。大人しくしててください」
「なんとなく発言が男女逆だと思うのは僕の気のせいなんでしょうか、いやそもそもどうしてこんな事するんですか君は」
そう言うと、セリオは微かに微笑んだ。股間で。
「以前から考慮の対象ではありました。ですがロボットがお相手では精神的ストレスを感じる方もおられますから、実行するには慎重な判断を必要といたしました」
「はぁ?」
僕に返事する間もあたえず、セリオはまたもぞもぞと潜っていった。
だけど、
「ひやっ!」
「大将、女の子みたいな声あげるのはいいのですが、頭をぽんぽん叩かないでください」
「そ、そんなこと言われたって!」
「目測誤ると喰いちぎってしまうかも」
「わぁっ!」
「騒がないでください」
そんな、ちょっと間抜けな……まぁ気持ちいい時間が続いたのだった。