中のひと

(注: 本稿は18禁です)

 今日は凄いニュースを見た。死病に冒されたひとがマルチボディ化したというものだ。

「こんなことできるんだなぁ」

 貧乏人の僕には雲の上の話ではあるが、それでも凄い事件には変わりなかった。

 メイドロボ技術というのはもともと、障害者や高齢者に対する介護技術だ。つまりこれらの最先端は医療への利用が今も昔もメインなわけで、いつかはこんな事も起きるだろうなとは思っていたんだけど。

「全身フル義体化かよ。もはやSFだな」

 テレビにはベッドの上で困ったように微笑むマルチが写っている。耳センサーをしてないという点をのぞけばその姿はまさにマルチそのもの。ただ表情の多彩さだけが違ってはいたんだけど。

「大将、コーヒーを」

「お、ありがとさん」

 まだちょっと寒いからうちはコタツが出たままだ。そのコタツにぬくぬく入りつつ僕はテレビを見ている。

 ──って、ちょっとまて。

「なぁセリオ。コタツの中になんかフニャッと柔らかいものが」

「おちびさんでしょう」

「そうか、ミニマルチか……っておいっ!」

 あわててコタツから出してみると、なんか真っ赤な顔で幸せそうなミニマルチが出てきた。

「ふやけてる……猫かこいつわ」

 ミニマルチはコタツで爆睡する猫のように力なくのびている。外に出されて寒いのか、首根っこを掴む僕の手を振り払おうと一生懸命だ。

 ふむ、壊れてはないみたいだな。コタツの中って結構な高温になるんだけど。

「丈夫だなぁ。てっきり壊れてると思ったんだけど」

「この子たちは玩具のカテゴリーに属しますから。子供の悪戯にも耐えられるよう頑丈に作られてるんです」

「へぇ」

 いいなぁ。僕もこんな風にふやけてみたいもんだ。

「やれやれ。せっかくだから油くらい挿してやるか。セリオ、六番くれ」

「わかりました」

 ぶらさげられたまま不思議な踊りを踊っているミニマルチを見つつ、セリオはそう答えた。いいけどMP下がるぞ。


 いきなりな話をするが、セリオは嬌声をあげない。

 もともとセリオにとって『夜の行為』は医療のための機能らしいが、そのためというわけではないらしい。それ以前にセリオには性の快楽という概念がなく、それゆえに嬌声をあげないのだと。

 なかなか難しい。

 体面座位という姿勢でセリオと交わる。文字どおり僕とセリオは向かいあわせで、そそり立つ僕のそれの上からセリオが座っているというカタチだ。あまり人様に見せられるような姿ではないのでこれ以上の説明はしないが。

 向かい合わせのセリオは両手を僕の首に回している。息は乱れてない。僕の方は当然ながら息も絶え絶えで、さっきから思考も回らなきゃ会話もできてない。締めつける肉の襞が凄まじい。さっきから何度吐き出させられたのか、もうわからない。

 メイドロボと交わることを変態扱いするひとはこの構図を嘲笑う。自慰とどこが違うのかと。

 だけど僕はそうは思わない。セリオはロボットなんだから、人間のように嬌声をあげなくても別に不思議はないだろう。彼女にとってセックスは愛を語らう行為でなく、マスターの心を癒すための行為なんだから。

 情けない奴と笑うなら笑え。僕は構わない。確かに僕はもてない、さえない男なんだから。

 だけどセリオを笑うのは許さない。この子は僕を癒すためにこうしてくれている。僕はそれが嬉しいし、だからこれでいいんだ。

「……」

 セリオはじっと僕を見ている。いつもと同じ無表情で。

 その瞳はいったいどこを見ているのか。どういう気持ちでいるのか。僕なんかのためにこんな事までしてくれる、だけどその心はどこにあるのか。

 僕はそれを知りたいと思う。

「……」

 セリオはただ無表情に、あえぐ僕の頬をそってなでた。



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