セリオが家族って、おかしいんだろうか……そんな事を思ったのはいつの日だっけか。
親が離婚というのは珍しいケースではない。小学校の頃でもクラスに少なからずいたと思う。片親で祖父母の家にいる奴とかね。
だけど、そういう家の子でも僕の家のことを聞くと「じゃあ、
どうしてなんだろう。
せりなに聞いてみると、せりなは顔色も変えずにこう言った。
「それは、私がロボットだからです」
「そんなのおかしいよ。家族っていうのは一緒に暮らす親しい者のことじゃないの?」
はい、その通りですとせりなは答えた。
「タイスケさんはお父様と同居しておられますね。ですからご家族はお父様です」
「父さんが家族?」
「はい」
よどみなく答えるせりな。でも僕にはさっぱりわからなかった。
「全然家にいなくて、たまに帰っても話もしない父さんが家族で、ずっと僕についててくれて面倒みてくれるせりなは家族じゃないっていうの?おかしいよそれ」
「私はロボットです。人間ではなくテレビや冷蔵庫と同じものです。よって家族の概念には含まれません」
「どうして?変だよ」
「……」
「せりな?」
唐突に黙ってしまったせりな。よく見ると何か通信しているようだった。なに通信してるんだ?
やがて、何か思い付いたように顔を改めて僕の方に向けると、
「わかりました」
「へ?」
せりなは微かに、だけど確かにうなずいた。
「では、私はタイスケさんの家族ということにさせていただきます。でも」
「でも?」
「これはタイスケさんと私だけの内緒ですよ?」
「どうして?」
せりなは僕の問いにちょっとだけ首をかしげると、
「どうしても、です」
ただひとこと、そう言ったのだった。
今にして思えば、せりなが「内緒です」と言ったのはもちろん僕のためだった。
当時、セリィストという言葉はまだなかった。後にロボット革命の父と言われた社会活動家・藤田浩之氏がまだ大学生で、試作型HMX-12型、通称オリジナルマルチとまるで新婚のような幸せな暮らしを過ごしていた頃だった。メイドロボを家族として共に暮らす人間に興味本位のマスコミが焦点をあてはじめ、それは決していいイメージでは見られていなかった。
だから学習力に優れた『鋼鉄の娘たち』は考えた。「秘密にしましょう」と。大人が相手なら理性的に諭し、子供が相手なら「内緒ですよ」と言い含めた。自分たちの存在が主人たちの社会的立場を損なうことがないように。セリオたちはサテライトで、マルチたちは井戸端会議でそれらの意見をとりまとめ、巧妙なネットワークを独自に作り上げていたのだ。
せりなと僕の場合、内緒にするのは社会的意味だけではなかった。父さんと母さんへも隠す必要があったからだ。せりなは父さん母さんがいわゆるセリィスト型の人でないことがわかっていたし、特に僕の知らない父さんの姿を彼女は知っていた。だからこそ、僕のためにそれを隠すべきだと考えたのだと思う。
運命はめぐる。悲劇をふくみ、ゆっくりと、しかし非情にまわっていく。
そして、運命の日がやってきた。