乗物にデザインなんて関係ないといつも僕はいつも言っている。といっても外見がどうでもいいというのではない。道具は道具として有能であればよく、よくできた道具はデザインもついてくるものだ。たとえばスーパーカブがそう。カブのデザインベースになったのはフランスあたりの小さなモペットだそうだが本田宗一郎たちはそれに納得しなかった。そのモペット然とした姿をとことんつきつめ、モペットのように気軽に乗り回せる『精鋭』をそこに注ぎ込んだ。そしてスーパーカブは近代史に残るほどの乗物となったのである。
そんな僕が乗物のデザインにこだわるとすれば、それは生物的なものである。
カブに戻る。カブには丸型と角型があり角型の方がセルを積み少し近代的である。しかし僕は角型を嫌う。熱狂的なカブの信奉者にも角型を好まないひとは多い。古くさいデザインなのにそれがいいという。セルがついてない丸型をわざわざ指定して買う。僕もそうだった。
理由は簡単。カブのデザインはどこか『生物的』だからだ。
プレスカブというカブは荷台の前にヘッドライトがついている。新聞配達時にノーマルのライトだと前が照らせないからだが、これをカスタムに用いるひとが少なからずいる。それどころかノーマルのライトを外してしまい、プレスカブのライトをとりつけてしまう。できあがるのはフロントフェンダーの上ににょっきりと生えたヘッドライト。これが実に生物的というか、デザイン次第では深海魚のような不気味なマスクになる。
だが、これがいいんである。実は僕のあこがれのデザインでもある。
フェンダーの上にヘッドライトという装備はかつて『モトラ』でも採用されていた。本来フェンダーの上にライトを配するのは重量バランス上あまりいいものではないのだが、前に荷物を積みつつ前方をよく照らすためにはそれがいいためだ。フロントキャリアの上にライトをとりつけるわけだ。これは胴長短足のボディでないとうまく映えないデザインとなるが、カブやモトラは元々そういうデザインがしやすい。よってそういう姿が成立してしまうのである。
もっとも、フレームマウントで角目のモトラはちょっといまいちなのだけど。