「うげ、しばれるべ今朝は」
冬の朝は、そんなセリオさんの言葉が玄関先から聞こえてくるところからはじまる。
「大将!大将~っ!」
いや、だからその変な呼び方やめとくれないかなもう。
「大将!起きてくださいよぉ、大将~!」
だから、朝っぱらから外で何叫んでるんですか君は。
「大将ってばぁっ!」
「だぁぁぁ、うるさいなもう!」
思わず起き上がる。
セリオさんにより既に暖房は回っている。 僕はつかつかと窓辺に寄りカーテンをむしるように引き開けて
「セリオ!朝っぱらからうるさ……」
そこまで言いかけて、止まった。
町中のあちこちから湯気があがっていた。
正しくは湯気じゃない。この町では25度くらいを割り込むと、そこらへんの用水路から水蒸気があがるのだ。
どんなに寒かろうが水が流れているという事はその水路の温度はプラスなわけで、25度の水温差は正しく+25度以上になる。
つまり、白く見えるのは水滴でなく瞬時にしばれた水蒸気。
そんな中、赤いスノーダンプを手に長靴ルック、もこもこ雪国仕様のうちのセリオ。誰にもらったのかマフラーやら耳カバーやら……って僕のじゃん。
「ほら大将、湯気湯気」
「水蒸気でしょう?にしても早いな今年は、もうそんな季節か」
僕がこの光景を好むのを覚えていたんだろう。道民でない僕の出身は南の温泉街で、そこら中から湯気が出ていたものである。
「ふむ」
セリオが置いたのだろう。窓辺に置かれていた保温ボトルからカップにコーヒーを注ぐ。
ちょっと熱い。が、外の清廉な空気とあいまってどんどん眠気が醒める。
「セリオ」
「はい?」
「一服したらそっちは手伝う。車のまわりやっといてくれるかな?」
「りょーかい。大将、いい朝っすよ!」
ぽいっとスノーダンプを放り出すと黄色い除雪用スコップを二刀流よろしく持ち、防寒フル装備のうちのセリオさんは車庫のほうへ回っていった。
「……しかし、だんだん道産子化するなぁ」
うちのセリオさん、もはや完全に道民化しつつある。
その理由も知っている。近所のおばさんたちが面白がって教え込んでいるらしいのだ。
僕も面白いので放置しているから、たまによそに出かけると笑えることになる。オフィス姿のセリオがシバレルとかハンカクサイとか言い出すもんだから、みんなぽかーんとして、次の瞬間に呆れるか笑い出すんだ。
「さて」
外は寒いに違いない。上着を手にとった。
昨日までのほつれは、いつのまにかセリオの手で綺麗に補修されていた。
das ende
この原稿は2chのセリオスレに投稿したものです。本サイトの変なセリオシリーズのモチーフになりました。
しかし2chに投稿したものでもあり、著作権その他は微妙です。よって本稿はパブリックドメイン扱いってことでよろしく。