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さまよえる星人の話

 僕はあちこち出かけるのが好きだ。旅行が好きで、カブで日本一周経験なんかもある。
 だけど海外にはほとんどいかなかった。そして今は旅をほとんどしていない。本来インドア派の趣味が多いとかいろいろあるのだけど、実のところ旅行好きという点は今も昔も全然変わっちゃいないと思っている。
 ではなぜ、出かけないのか。それは自分の行きたいところ、自分の行きたいところに今はどう足掻いても行けないのだと知ってしまったからなんだと最近は思う。
 
 だってそうだろう。もともと、僕が行きたかったのは壮大な星の海だったんだもの。
 
 ネット上に1900年頃のロシアのカラー写真が流出していた事がある。僕もゲットしたのだけど、当時の好事家が撮影した着色でない、総天然色のロシアのカラー写真はその青空も非常に美しく、景色はまるで指輪物語の世界だった。今はみられない、しかし非常に美しい光景だった。
 それを見ていて、なるほどと僕は改めてその気持ちを噛みしめた。
 今でない時、ここでない場所に行ってみたいとひとは欲する。だけど今の人間は他の島宇宙どころか火星にすら行くことができない。それは行けたとしてもまだまだ未来のことで、そして僕はどう足掻いてもそういう時代までは生きられそうにない。しかも僕はその場所まで、自分でそのための乗物を駆って行きたいと思っていたのだ。宇宙船、タイムマシン、ブツはなんでもいい。自力で景色をみつつ行く、そのことがとても大切だった。
 なるほど。自分の小説趣味の理由が(ようや)く理解できた。行くに行けない異星への旅、それを物語の形にしていたわけだ。
 『α』の話を書いたのは中学の頃だ。それは(あや)というアンドロイドとソフィアという宇宙人、そして恒星間宇宙船アルゴノート号の設定からスタートした。よくある話のセオリーというかお約束に従ったネタだ。たまたま何かの事情で地球にきていたソフィアと何も知らない主人公が知合い、そのために事件に巻き込まれて普通の人生から外れてしまうというものだ。
 特筆すべきはアルゴノート号だと思う。
 この船の原案はさらに古い。あちこちの小説本や漫画で得た知識もベースになっていて、おそらく生体宇宙船であり頭脳船の一種であるなどの特徴は弓月光、長谷川祐一などの著明な漫画家の影響もあるのだと思われる。もっとも近い存在である『ハイスピード・ジェシー』のパオロン号はまだその存在を知らなかったし、アルゴノートはパオロンほどに生物的でもない。製造も未知の異星文明ではなく隣のアンドロメダ、イーガ帝国によるもの。特異な構造ではあるが、その意味ではわりと普通の宇宙船なのである。
 
 アルゴノート。イーガ帝国に作られた恒星間超高速船。由来は海底二万マイルのノーチラス号でありギリシャ神話だかのアルゴー船ではない。
 当時はノーチラスが誤訳で本来はアルゴノートである事など知らなかったが、同作の子供むけの冊子の中の皮肉っぽい一節を僕は覚えている。それは主人公たちがフネダコ(アルゴノート)について話すというもので、いっそこの船もアルゴノート(フネダコ)とすればよかったのにと主人公の仲間のひとりが述べるというものだ。もともと船名がアルゴノートならばヴェルヌの原作にこの一節はないか、そもそも微妙に内容が違うに違いない。
 今にして思えばそれは、ノーチラスが誤訳と知りながらノーチラス号と書くことを求められた訳者のせいいっぱいの皮肉だったのではないか。発言を微妙に変えて、本来はアルゴノートなんですよと主張していたのではないかと僕は思うのだ。まぁ当時の僕はもちろんそんな事情しらなかったがそのエピソードはとてもよく記憶していて、アルゴノート号は海底二万マイルに由来しながらノーチラス号でなくアルゴノート号になった。あの訳者さんの執念のたまものなのかもしれない。
 まぁいい、アルゴノートの話を続けよう。
 この船は当時の僕の宇宙へのあこがれがそのまま形になったようなものだ。僕の脳内世界では三十年以上昔から存在する。初期型は当時流行の宇宙戦艦ヤマト同様に艦首波動砲を装備していた。主機つまりエンジンの出力を利用するので発射前に停止してしまうことまでご丁寧に同じにしてあった。構造や設定には当時からこだわっていたようだ。しかしコックピットはなかった。あった方がそれっぽいのだけど、生物由来の船にコックピットがあるのは変だろというのがその理由だった。どこにでもいればいい。頭脳と会話できればそれで船は飛ぶ。座席はあるが、それは危険防止や通信室のような意味合いのものでコックピットではないのだ。
 しかし、子供の設定した宇宙船にしては妙に地味だったんじゃないかと今の僕は思うのだ。
 絶大な破壊力を持たせたのはその初期設定だけで、それ以降はむしろ『速度』や『航行方法』に特化していった。直接戦闘について最後に描写したのは数年前のクロス作品で、この時はLeafのノベルゲー『痕』の柏木初音が搭乗しており、主砲は重力破壊砲、つまりグラビティブラストの類だった。重力制御はできるのだから重力波砲も使えるだろうということで、危険なアステロイドの除去などに使う作業用のもの。つまり、既に純粋な意味では武器ではない。
 現在のアルゴノートに武装の記述はない。武器がないわけではないが、それは作業用のもので戦闘用のものではないし、最大の武器はその運転速度であるから高度な武装は積んでいないというのがその理由である。
 だがその実、アンドロメダまで十連邦日というとんでもない速度のために他を犠牲にしているという方が正しいのだろう。
 
 ちょっと停止したままの『α』であるが、見直しも含めてまた再開したいものだ。『宇宙』にもっと特化して。



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