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鉄拳ラビ

 それは寂しく、小さく、だけどそれなりに自由な人生のはずだった。
 
 何ももってなかった。最低限の仕事はできたけど特に秀でているわけでなく。幸いにも職にはあぶれなかったが人を唸らせる才能もなかった。人づきあいはからっきしで婚期も当たり前のように逃したが、それについて悔いるのも僅かな時間。もとより自分の財力や性格を考えて、おそらくは破局するだろうと考えていたし、そもそもそれ以前に、あの人と思えるほど愛しい人すらそれは見つける事ができなかった。ただひとり生きて、ただひとり老いて、そしてただひとり死ぬ。それだけの人生。誰の得にもならず、誰の損にもならない。マイペースでただ生きるだけの生涯のはずだった。
 だがある日、ほんの小さな選択が彼の人生を大きく狂わせる事になった。
 趣味のジャンク集めで訪れた戦場跡。ほとんど奇跡のような偶然から彼は思わぬものを見つけた。それは客観的には不発弾発見程度のものではあったが、それでも彼の平々凡々たる人生にとっては規格外も甚だしい「ありえない出来事」だった。
 そして彼の人生はそのラスト直前にして大きく、そして果てしもなく狂いだしたのである。



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