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古い友達

 突然に引越しになった。わけもわからずあれこれと手続きが進み、わらわらと引っ越した。それも別に遠くでもない場所だ。
 同じように突然引っ越した奴にクラスメートが二人いた。そのうちの一人は親しく、もうひとりはお人好しでいい奴だったが直接はあまり話したことのない奴だった。
 引越し後、親しい奴とふたりでそいつの家に遊びにいくことになり、皆でてくてく歩いていった。途中に古本屋があった。昔の、松本ものでないコミック版ヤマトとか妙にマニアックな本とかもあるが、品物だけでなく店自体も非常にマニアックで昔の懐かしい本屋のよう。こんなとこで買う奴いるのかなとか話しつつ友人宅に到着。
 彼の部屋に入るとギターやラジカセなどが雑然と置いてあった。彼は友人だけでなく、あまり親しくない僕のためにまで簡単だけど食事を用意してにこにこ待っていてくれた。で、今回の引越しは区画整理のためで、しばらくは旧住所のままでも郵便とか届くんだぜとか、そんな話をしながら時間を過ごした。
 
 で、そこで目覚めた。夢だったのだ。
 
 友人などほとんど覚えてない僕だけど、何人か覚えている人間もいる。彼はそのひとりだ。
 彼はサッカー狂だった。今ならそれがどうしたと言われそうだが当時は全然事情が違う。その頃までJリーグどころかプロ野球全盛時代で海外スポーツの情報なんて入手するだけで大変、外国でサッカーが花盛りなんていっても「はぁ?」という時代だった。平井和正の小説でブラジルなどのサッカー熱について書かれているのを見て「へぇ」なんて思ったくらいだったのだ。
 そんな頃に彼はサッカーにはまっていた。いずれ日本でもメジャーなサッカーのリーグ戦がはじまる、そうなったらブレイクするんだ、サッカーはこれからのスポーツだと熱狂的にサッカーへの思いを熱く語る、そういう男だった。授業でサッカーになると水を得た魚のように駆け回っていた。
 親しい友人はほとんど忘れているのに彼のことは覚えている。その独特の空気まで。
 不思議なものなんだなと、ふと思った。
 
 遠い日の思い出である。
 
(END)



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