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とある夫婦の肖像

 とあるところに若夫婦がいた。夫は元アマチュア力士で非常に恰幅がよく、妻はちっちゃくてマメマメしくてある意味幼女っぽい。身長差は40cmを越え体重差に至っては二倍ほども違うか。花火見物に肩車もしたというからこれはもう、外観だけいえば犯罪めいた迷カップルであったとすら言えた。
 とある夏の事。ふたりの住む町にパチンコ屋がやってきた。その派手派手しさについて二人で「うざいなアレ。美観を損ねる」「ほんとねえ」なんて話をしていた。
 しかしこのふたり、好奇心だけは人一倍だった。当然だがものの試しに入ってみようという事になったわけだが、そこまで来て二人とも困ってしまったのである。
 今ならともかく昔の話だ。純朴なふたりの目にはパチンコ店は風俗営業にしか見えない。そもそもパチンコというのは博打であるし広い目でいえば一種の風俗店とも言えなくもないからふたりの評価もあながち間違いではない。ないのだが…まぁ仕方ないという事で、ひとりではとにかく行けないからふたりで行こう、という事に落ち着いたのだった。
 だが喜劇は続く。
 歩いて行こうとすると足が向きにくいし第一恥ずかしい。車で行けばいいだろうと男が車をもってきた。それに乗り込みふたりでパチンコ屋に向かったわけなのだが、なかなか駐車場に入らない。いや入れない。
 ようするに、車ごしでさえ入るのが恥ずかしかったのだ。
 結局ふたりは陽が落ちてから入った。男は少しだけ負け女は少しだけ勝った。二人揃うとどっこいだねえと苦笑しつつふたりで帰った。
 その日の晩は材料もなかったから、わずかにプラスとなったお金に小遣いを足して店屋物を食べたという。
 今は昔。昭和四十年の物語である。
 
 (2005/6/8)



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