音域拡張計画の技術的根拠

サンプル
男でも高い声は出せます
我流・訓練法
準備するもの
高音を出してみよう
4つの声の段階

 本章では、私が行っているボイストレーニングみたいなものの技術的根拠について語ってみたい。

サンプル

 以下のトレーニング方法でやってみた実際のサンプルです。

男でも高い声は出せます

 勘違いしている人が多いのだけど、変声期を迎えて低音ベースになった男の喉でも高音を出す事自体はできる。楽器に置き換えてみればわかると思うのだけど、 ユーフォニウムやチューバといった低音域の楽器でも中高音の演奏自体は不可能ではない。 もちろんそれなりの技術を要するわけだが、できないわけではない。

 なに?「理屈はわかるが現実をみろ、高い声なんて出ない」って?いや、その言葉そっくりお返ししよう。よほどの特異体質でない限り、あなたは人間の喉が声域を超えた高音を出すのを普通に聴いているはずだ。

 たとえば、ポップスやロックでもナチュラルに地声以外の声を使っている人は無数にいる。シャウトとかの話ではない。普通すぎてあなたは気づいていないかもしれないが、むしろ『歌唱用の声』自体が地声ではないのだ。声楽の世界ではもちろん、歌唱を必要とするほとんどのジャンルにそれは言える。

 素人でもある。
 たとえば「どっから声出してんだこれ」と耳塞ぐような強烈な悲鳴あげる人がいるが、あれは 裏声 である。声帯を締めこみフルパワーで発声している。これは生物学的にも理にかなっていて、 そもそも人間の声帯は多彩な音を出して会話するためのもので、大音量の発声には向かない のである。無理をするとあっさり壊れる。だから声帯をバイパスさせて喉全体から発声する。つまり 「黄色い悲鳴がどうして黄色いか」の答えは、声帯を閉じて喉全体で大音量を搾り出すから なのだ。

 さて、ここでちょっと考えてほしい。つまり悲鳴って奴は普段の会話とは違う方法で発声するわけだが、そのかわり普段出せない高音を扱うことができるわけだ。……そう。 「ならばそれを制御できないか?」 ということだ。ファルセットからシャウト、バードトークその他もろもろ、高音を取り扱うテクニックの数々はそうした試行錯誤の末に生まれているのである。

我流・訓練法

 根拠や解説はわかった、男女問わず高音は出せるのもわかった、では具体的にどうするんだ?うん、確かに。

 単純明快に言えば、それは発声法に尽きる。それも難しいものではなく、いわゆる裏声の練習をひたすらするだけである。様々なところから情報を集め、それと自分の体験を組み合わせた我流なんですが、おそらく(方向性はともかく)基本的なボイトレとしては正しいところに行っているんじゃないかなと考えています。

準備するもの

 特にありません。ただ裏声の出し方を知らない、という事でしたら、それだけ勉強してきてください。一度覚えてしまえば一生忘れないような簡単なものですので。

 あとは録音できるもの。なんでもいい。携帯でもいいですが、安価でもいいから音質面でICレコーダーがおすすめです。 自分の声って自分ではわからないものなので、確認に必ず必要になります 。(高音質のPCMレコーダほどのものはいりませんが、携帯では音が悪すぎる)

高音を出してみよう

 では実際にまず高音を出してみましょう。

全身リラックス

 まず全身をリラックスさせる。

「そんな事突然言われても」と言われそうなのでもう少し具体的に。上半身の力を抜き深呼吸してみましょう。背中が曲がってないか?手に何か持っているのもよくない。最も抵抗なく呼吸できる姿勢にしてましょう。背もたれのない椅子でもいいし、立つのもいいです。

 そしてその状態で、まず普通に「あー」と声を出してみる。出ますね?でなければ、楽に声を出せるようもう少し姿勢を調整して再挑戦。

 ボイトレに「力み」は禁物です。大昔の応援団よろしく全身緊張して声を張り上げると喉を潰します。むしろ「こんなリラックスしたら声もろくに出ないだろうが」と思っちゃうくらい力を抜いてやってください。 声の大きさで悩むのは、ちゃんと声が出るようになってからの話で、今は全く気にする必要はありません

可能な限り最も高い裏声を出してみる。

 自分にできる限り最も高い裏声を「あー」と出してみる。奥行きのない平板な、男とも女ともつかない声で「あー」と出るでしょう。

 その声の出し方を維持したまま、どんどん声を下げていきます。ある程度下げたところで突然に反転して地声に戻ってしまうはずです。これをしつこく繰り返します。

裏声で音階。

 あと、音階の訓練。つまり、その裏声でドレミファソラシドを歌ってみることです。これはそこいらのボイトレ本でもなんでも参考にしてくださってOK。古い言い方だとロングトーンとか色々ありますが、これを裏声で試します。

「たったそれだけか」と言われそうですが、とんでもない。 僕は最初のこれで一ヶ月かかりました。

 えっと、そうですね、金管楽器の練習経験のある人ならマウスピースの訓練でわかるでしょうか?そう、あれと同じです。ちゃんと訓練したラッパふきはマウスピースだけ、あるいは唇を震わせるだけでも音階ができます。だが普通の人にはそんな事できないので、大抵笑われるか驚かれますが XD

 要するに、裏声の制御は地声の場合とそれほどに違うんです。まるで勝手が違うので、ドレミファ歌うだけでも大変ってわけです。しかし、ここが乗り越えられないとラッパの練習のように先には進めません。

 また、裏声をはじめて出した人なら「キモイ、なんだこの声。それにこんな声で音階なんて出せるのか?」と不安になるでしょう。発声も当初はしんどいかもしれない。しかし、これは喉が鍛えられていくと自然に落ち着き発声も楽になります。理由は後に述べます。

裏声で低音を出す。

 何とかドレミファが出るようになったら、さっそく唄いまくりましょう。いや、もちろんドレミファの基礎練習は続けたほうがいい。ただ基礎訓練って退屈ですし、好きな歌が歌えるというのは励みになります。だから、こっちもどんどんやりましょう。

 この頃になるとカラオケボックス等に通うのも手です。
 ひとりで、しかも裏声で歌うために通うのです。 慣れてない人には二重苦以上というか、どMというか、それ何て羞恥プレイ状態orz ですが、 何度か通えば快楽になってくる (w ので気にせずどんどんやりましょう。どうせ週一通って二ヶ月もしたらノミの心臓の人でもほぼ平気になりますから心配無用 XD 僕がそうでしたから間違いありません。

 最初は簡単な歌から。「さくらさくら」みたいなとこからはじめて唱歌や古い歌を色々試すのもいい。もちろん何でも試せばいいんですが、かけてもいい、ドレミファも何とか制御できるかって状態で今時のテクニカルな歌を歌うのは不可能です。なぜかわかりますか? 喉自体も未熟なうえ、しかも未だあなたは頭で喉を制御しているから です。歌に集中しようとすると声がめちゃめちゃになり、声にあわせると歌がついてこなくなります。これは難解な数式を解きながらスポーツするようなもので現状無理なんです。どうしようもないので、自然と単純明快な歌を探して歌うようになるでしょう。

 ここでひとつ気づくことがあるでしょう。つまり「低い声が出ない」事です。そう。構造上裏声って低音が出ないんです。

 でも、ここでは低音の練習をしてください。楽に歌える高い声や、カラオケ設定を駆使して音を上げたりしながら、ゆっくりと低い声に慣らして行ってください。

 私に言えるのは実はここまでです。私もこの段階を進んでいる最中だからです。ですが、その途上の経験から言えば、少なくとも確実に歌えるようになるのは間違いありません。あとはどう仕上げるかによりますが賛美歌歌うような声にしたいのか、DTMでボーカルの味付けにしたいのか、ライブなどで効果的に使いたいのか。それらの用途によって着地点は違ってくるでしょう。

4つの声の段階

 最後に、上で「練習を続けていると声も落ち着き楽になる」と書いたことについて解説します。

 裏声の練習と簡単に書いていますが、実は本当の意味で裏声を発しているのは本トレーニングではごく初期の間だけなのです。喉が鍛えられるについて少しずつ発声法が変化していくもので、その変化はたとえばこんな感じになります。

段階 説明
(1)最初の裏声 いわゆるペラペラの裏声そのもの。このままではちょっと使えない。
(2)クラシックみたいな裏声 丸みを帯びた柔らかい声。ちょっと違うけど、素人的には「もののけ姫」とか想像されるとわかりやすいかも。
(3)ポップスに使えそうな声 クラシック調より芯があり押し出しの効く声。
(4)ミドルボイス 限りなく地声に近いが、高らかでやはり明らかに違う声

 たぶんこんな感じ。ボイトレ本なんかも似たような事書いているようなので、だいたい皆さんこんな感じに受け止めているんだと思います。ボイトレを続けていくと、(1)から(4)へと進行していくカタチになります。私は現在(2)から(3)に進んでいる最中くらいかな。(4)も少し出てきているが、上と共通したひと繋がりの技術として使えているわけではない。

 ではこの違い、どうして発生するかわかりますでしょうか?

 あくまで私自身の経験からの推測なんですが、おそらく経験を積むに従い、「裏声の発声をしつつ、少しだけ声帯の方も開いて声全体を制御している」んだと思います。そう、鍛えられた喉と制御技術の向上があわさった時、出てくる声も一段階進化する、とまぁそんな感じなのだと考えています。

 そして、これは決してただの当て推測ではありません。こうやって練習していると 「声帯が開いている」ことが体感でわかるようになる んです。私が今その状態です。まぁそのかわり、その状態で歌い続けると地声と同様に喉が疲れるんですが。未だ自由に開閉するに至っていないのですが、完成すればおそらく(4)まで全てつながる糸口が見つかるのだろうと考えています。

 さて、また何か進展があればいつか書きます。