エムネア・パルティ・アマルー。 彼女が自動修復中の船の確認をしたのは、ほんの奇跡的な偶然のためだった。 教え子たちが船を見たがったから。 ただそれだけの事だったのだ。 ■ ■ ■ ■ 「せんせー、なにしてるの?」 「これはね、この宇宙船のほかにも船がないか調べるものなの。 時々こうやって、こわれてないかも兼ねて調べるのよ」 「……うんこーまえ、てんけん?」 「あら、よく知ってるねアヤカ」 「えへへぇ」 最年少の娘をほめながら、彼女は計器類のチェックをしていたのだけど。 「──あら?」 「どうしたの?」 「へんね、この近くに船がいるみたいなんだけど……なにこれ!?」 船舶種別を調べて、ギョッとした顔になった。 「破壊作業船?なんでこんな船が……? え、連邦の船がいる?オン・ゲストロも?なにこれ!?」 何か、とてもやばいことが起きている。そんな予感がする。 「アキラくんユウキくんちょっと!」 「なに?先生?」 「みんなを船の中に入れてくれる?」 「え、どうしたの?」 「いいから、念のためよ」 「あ、はい」 「みんなー、船の中に入るぞ!」 「「はーい」」 田舎育ちということもあり、子供たちは素直だった。 よしとエムネアは納得し、センサーの監視に戻った。 連邦とオン・ゲストロがいるだけならいい。何かの情勢が動いたという事だから。 でも、破壊作業船は別だ。 彼らはボルダでもアマルー王家でも要注意に指定されている。 当然、そちらの系列であるオン・ゲストロが雇うわけもないので、連邦系の誰かの可能性が高いが……ものすごくいやな予感がする。 「なによこれ、なんで小惑星なんて曳航してんの?」 いやな予感しかしない流れだった。 しかも、その小惑星を破壊作業船が地球近くでリリースしたことで、エムネアは彼らの目的を正しく知る事になった。 「地球に落とす気!?」 たちまちに船のコンピュータが危険の警告をあげはじめる。ただちに大気圏外に避難せよと。 「みんな入ったわね!入口を閉鎖して!」 「わかった!」 エムネアは子供たちに指示すると、さらに船と会話を続ける。 ギュッとしがみつく温かいものを感じる。 みれば「ちぇんちぇー」と発音まだ怪しい最年少の『アヤカ』が彼女にしがみついてる。 大丈夫よ、とアヤカの背中を片手でポンポンしつつ会話を続ける。 『落下予想地点が近すぎます。このままでは巻き込まれます』 「大気圏内用ブースターは使える?回避を試みます」 『エネルギー不足なので回避用途はおすすめしません。むしろ大気圏外への退避を』 「え、上にあがれるの?エネルギーは?」 『非常用の特殊カートリッジを使ってください』 「あ……非常用かぁ。王家に迷惑はかけたくないけど」 『仕方ありません。起動と同時にオン・ゲストロに通報します』 「万が一にも連邦に拾われないようにってことね。わかったわ」
アマルー族、それもフルネームの最後に「クオン」または「アマルー」が入るのはアマルー王家とそれに連なる者だけである。そもそもアマルー(猫人)の独立国家は銀河にただひとつ『クオン・アマルー』だけなので、その王族名を冠する家系ということは、銀河でもオンリーワンということになる。 末席とはいえ、そんな家系の人である彼女がどうして地球の、それも日本の子供たちを教え子にしているのか。ひとことでいえば、船の故障である。 トラブルの果てに日本の某所に漂着してしまった。 アマルーの船は隠蔽にすぐれるというが、さすがに地元民には見つかってしまった。
土地の人々のところに居候しつつ、自分にできるお手伝いをしていた━━つまり臨時教員というわけだ。 だけど彼女がそこにいることも、そして異星人の船があることも日本政府も誰も知らなかった。 銀河連邦も知らない。 アマルーの船は隠蔽にすぐれるというが、まさかの高性能だった。 オン・ゲストロの担当はさすがに気づいていたが、無害に一般人が交流しているのを咎めるつもりもなく、助けが必要ないとみなして放置していた。 幸い、彼女はアマルー本星で教員ライセンスを持っていた。 日本の教員免許は持っていないのだが、都会でリタイヤして戻ってきた元先生がいたので、その人の監督下で臨時教員ということになった。 猫の宇宙人とはいえ、体型などは人間と大差ないわけで。 子供たちは最初こそ驚いたものの、たちまちエムネアに懐いた。 そんな楽しい日々だったが、いつか別れのくる関係でもあった。 いつまでもお世話になるわけにもいかなかったからだ。 船の修復が進むにつれ、子供らは船の話をしなくなっていった。 小さい子などは「せんせー、いかないで」と言って泣き出す始末だった。 そんな毎日が続いていたあげくの今日である。 どうも子供たちの中で「お別れが近いからこそ、いっぱい先生との思い出を作ろう」という意見が上がったらしい。 田舎で少人数ということもあり、子供たちはひとつのコミュニティを作っていたからだ。
実をいえば、彼女の乗っていた船が落ちてしまったからだ。 勤め先をクビになり、心の癒しにと訪れた、噂にきく聖女様の故郷という事以外まったく知らない星。 しかもどうやら『ゲンカイシュウラク』なる超田舎に落ちてしまったようだった。 しかし結果として、逆にそれが幸いした。 アルカとは全く違う猫の人アマルーの容姿も、ものすごく珍しがられただけ。なんと通報もされなかった。 へたに都会に出るのも危険ということで、自動修復で船が治るまで村でお世話になっていたのだけど。 ある日、村長なる老婆がやってきて、子供らに勉強を教えてやってくれと言われたのだ。 『いいんですか、わたし異星人なのに?』 『は、こんな限界集落じゃ医者も先生もきてくれんよ。 きけば教員免許はあるんじゃろ?』 『はい、アマルー本星で幼年クラスの資格をとりました。少しですが実地経験もあります』 『別に全部とはいわねえヨ。 今どきは通信なんたらで勉強なんてのもあっての、そっちで子供らを集める話が進んでおったのよ。 けどヨ、読み書きそろばんだけが教育じゃねえだろ? 初等教育くらいは直接、手とり足とり教えてやりたいじゃねえか。なぁ』 『そうですね、それはわたしも同意見です』 結局、彼女は教員を引き受けた。 といっても本来の勉強は通信で受けて彼女は添削、それから道徳や体育などか主体になったが。 しかしすぐに授業内容が増えた。 子供たちが目をキラキラさせて、宇宙や銀河文明のことをものすごく知りたがったからだ。
12人の子供たちと先生
・エムネア・パルティ・アマルー ・アヤカ 5歳 最年少。ショートカット。本来就学予定ではないが、一緒に教えている。 ・アキラ 12歳 最年長。 坊主頭。最年長でこっそりエムネアの手伝いもしている。 ・ユウキ 11歳 調髪 親に切ってもらった髪が恥ずかしいと思っている。 ・ユウジ 10歳 調髪 坊主頭 ・ユウタ 10歳 調髪 坊主頭
異星人の船の不時着。 エムネアがアマルー族、つまり猫頭人身の種族であることもあり、あの時はみんな興味しんしんだったものだ。 だけど、だんだん仲良くなってくるにつけ。 船の自動修復がすすみ、帰還可能になる日が近づくにつれ。 それが『臨時教員・エムネア』との別れの日だと知っている子供たちは船のことになると口を閉ざし、小さい子などは泣き出す者までいるありさまだったのだ。 懐いてくれるくれるのはうれしい。 見たこともない異星人だというのに、 日本の田舎の子供たちにとっては映画かアニメかという出来事なわけで、そりゃあ最初は子供たち 以前はよく船を見たがったのだけど、だんだんと仲良くなってくるにつけ、幼年の子たちを中心に船に近づこうとせず、エムネアが船に戻ろうとすると泣き出す子まで出だした。
「みんな、すぐ船の中へ!」 「先生?」 「いそいで!!間に合わない!!」 何やら空に巨大なものが見えて、子供たちが「なんだなんだ」と見上げていたその時。