時はコータとミリアが出会い、移動を開始した頃に遡る。 この頃、地球における銀河文明のにらみ合いは、いよいよ危険な状況に陥っていた。 ■ ■ ■ ■ 古くから地球人と交流していたのは『オン・ゲストロ』を自称する者たちだった。 彼らは以前、太陽系に拠点をすえていた時代があり、隣人として当時から地球人とも交流をもっていた。 そう、交易でなく交流。 儲けにはならなかったが、彼らは長期視点の繋がりを重視していたために問題にならなかった。 いつか、ふたたび太陽系に拠点を据える時代がくるかもしれない。 そしていつか、彼らが宇宙に出ていく日がきたら本当の意味で自分たちの仲間になってほしい。 オン・ゲストロたちはその後も静かに、ローインパクトな形で地球に関わり続けていた。 そんな中、銀河連邦からひとりの女学生が地球に降り立った。 彼女は古代文明の研究者で、地球のような未熟な文明圏には現在の銀河では失われたものがあるとして、それを調べにきたのだった。 ソフィア・マドゥル・アルカイン・レスタ。 彼女は同時に銀河連合議長の娘でもあった。 そして良くも悪くも彼女がきっかけになり、銀河連邦と現地球政府群の交流が始まった。 地球の暦で21世紀のとある晴れた日のことだった。 だが、ここで問題が発生した。 連邦は巨大な勢力を誇っていたがその実態は通商連合だ。 彼らは利益という観点から星間文明をもたない種族とのやりとりを制限していた。理由は簡単で、未開種族を騙して一方的な搾取をしたり、とある文明で知的種族とされているものを別の種族が家畜として売り買いするような事で生じるトラブルを避けるためだった。 そんな連邦人にとり地球はまさしく「本来関わるべきではない」文明圏。 そんなところと関わりをもってしまったがゆえに、本来起きてはならない問題がいろいろと発生してしまったのだった。 たとえば。 「人道的措置」として銀河文明側にひきあげ治療した人を、ペットによさげという理由で業者のひとりが横流しして販売するという事件が発生した。 地球から見れば間違いなく奴隷売買だった。 しかし当人には罪の意識などなく、職場の上司にも横領のかどで叱責されただけで終わっている。 なぜか? そもそも連邦の価値観では、宇宙文明を持っていない地球人は知的生命ではなかったからだ。 要するに、誰のものでもない野良猫を治療し、よさげな一匹を業者に売った。ただそれだけの話だったのだ。 当然、叱責する方もされる方も、勝手に売るなと怒られた程度にしか思っていない。 担当はもちろん上司も、そして組織もである。 こんな状況での『交流』が果たしてうまくいくものか? もちろん無理だった。 特に、交流開始のきっかけになったソフィア姫の結婚が迫り、直接地球に関われなくなってきた事もあり、それは際限無く悪化していってしまっていた。 もちろんオン・ゲストロ側は怒ったわけだが、連邦側にはまったくの馬耳東風。 オン・ゲストロも、そしてソフィア姫もせいぜい文化交流だけにとどめていたというのに、彼らは地球から利益をあげようとした。 あらゆるものが歪み、きしみをあげた。 ミリアの父が地球を離れたのも、そうした原因のひとつによるものだった。 ■ ■ ■ ■
そんな状況の果てに、その事件は発生した。 いったい、何がおきたのか? それは地球の現状をみればわかるだろう。
現在、地球の平均気温は摂氏560度である。 誤植でも冗談でもない。 本当に現在、地球の平均気温は摂氏560度である。だいたい地域と時刻により530〜580度くらい上下しているようだが。 もちろん地上は壊滅しており、生き残った人類国家は存在しない。 高温に弱い金属は溶けるが、この気温では鉄などは溶けないので建造物は骨組だけ結構残っている。 驚くべきことだが、たった13人であるが地上に生存者が確認されている。 公式に地上から助け出された地球人、それも日本人の子どもたち。 事情で日本の某所に長期滞在していたアマルー族の女性と、彼女が保護していた現地の小学生12名。 彼らはもれなくオン・ゲストロのエージェントに保護され、女性のつてで銀河のアマルー王家に連絡が飛んだ。 また当時、宇宙ステーションなる小さな『浮島』で作業していた地球人が数名いた模様。これらも状況発生直後にオン・ゲストロの救援隊が保護済みであるが、人数については不明。理由は、当人たちが現状、情報開示を拒否しているからである。 彼らの行き先も発表されていないが、オン・ゲストロの慣習からして、一度本星に送ってから身の振り方について相談するのだろうと思われる。 なお、それ以外に生存者は判明していない。 コータたちが地球を離れた直後のことだが、太陽系外からやってきたひとつの業者が地球圏に到着した。 彼らは連邦に雇われた特殊な業者で、アステロイドの破壊などを安価に請け負う仕事をしていた。 そんな彼らだったが、連邦か彼らを「オン・ゲストロの拠点を攻撃させる」ために雇った。もちろん自分たちの関与は隠して。 しかし到着して彼らが持っていた命令書には、地球に300km級の小惑星を叩き込む指示が書かれていた。 そして彼らはプロであるから、その指示通りに実行。 地球は小惑星のもたらすエネルギーをうけ、さらに衝突の莫大な熱量が全惑星を吹き荒れた。 そう。 摂氏560度で地上を焼き尽くしたのは彼らだった。 確かに実行犯は彼らなわけだが、その経緯には疑問点が残る。 連邦は否定しているが、たしかに業者に委託されていた。 内容はオン・ゲストロの拠点の場所と、攻撃方法として局地戦用の小型反応弾の指定。 つまり拠点に大ダメージを与えはするものの、地球側には大きな影響が出ないよう配慮されていた。 だがその指示は、担当者に届くまでに何者かの手で改ざんされていた。 書き換えられた内容だが『|職人芸(アガロマネジ)』という攻撃方法に変更されていた。 これは大気のある星に小惑星を落とすことで全惑星を『野焼き』するという手法。 たしかに300kmの小惑星激突のインパクトは巨大だが、大気のない星ならそれで終わり。 しかし大気があれば、天体衝突により発生した膨大な熱量が大気に乗って全惑星を覆う。 天体そのものにダメージを与えることなく、地上環境に適応した生態系を焼き尽くせる。 そしてそのとおり、実行されてしまったわけだ。 書き換えた犯人については今のところ不明。 おそらく地球にいい感情をもってなおらず、そして今回の依頼を知っていた者……要は連邦側の誰かの仕業であうと推測される。 コータはこの状況に、船のハイパードライブの合間に気づいていた。理由は簡単で、地球で交流のあった『精霊界』との連絡が一時的におかしくなったからである。 やがて通信は回復したが、地球との接点がなくなった事をそこで知らされた。 コータが情報源を他人に話さなかったのは、もちろん情報源が精霊界だったから。 空間魔法使いにとり、その能力でしか行けない異邦の話を同類以外の者にするのはタブーであり、彼もまたそれに従っていた。それだけである。 なおトラファガー便の運営元は彼が隠していることは知っているが、彼らは問題にしていなかった。 というのも、魔術師だの研究者だのといった手合というのは基本、皆で共有すべきものについては饒舌だが、秘匿すべきは絶対に喋らないものだからだ。彼らはコータたちをよく理解しているといえる。 だがコータは、そして精霊たちもミリアにも知らせなかった。同類なのに。 とはいえそれは、むしろミリアの状況に配慮したものだった。 結果としてミリアはボルダ到着後に父親の口から聞かされたわけで、ある意味正解だったと言えよう。